審 査 講 評
審査委員長 鈴 木 潔
第38回長野県工芸展は前年よりも1割ほど多い104点の応募があり、そのうち94点が入選した。出品数を減少させる公募展が少なくない中で今回の増加は立派である。しばらく途絶えていた漆工、金工、木彫のエントリーがあったのも喜ばしく、今後もこの傾向が続くことを祈念したい。
私が審査員に加わってから既に28年が経過した。この間に世代交代が随分と進んだが、長野県工芸展の独自色は変わることなく、連綿と継承されているように思う。いくつか例をあげるならば、緑濃き信州の大地に根差したゆとりある生活環境が育んだおおらかさ、いたずらに斬新を求めない堅実な仕事の積み重ねから滲み出る落ち着き、温故知新の懐かしさなど。これらは世代を超えて多くの作品に認められる特徴である。諸県の工芸がともすればインターナショナルな無国籍の領域で発言を増しているのとは対照的に、グローバル化と一線を画す地域性の堅持、浮ついたところがない体質は、誤解を恐れずに想像すれば、頑固といわれる信州人の気風が意識的に、ないしは意識下の領域で、造形に影響を及ぼした結果といえるだろうか。
本展の出品作は、少なくともデザイン上は保守的な傾向が目立つが、マンネリ化と同義ではない。そのことは注記しておきたい。今回最高賞を受賞した染織作品は過去に受賞を重ねた大家によるものだが、熟練の職人芸を基本に置きつつ、伝統に安住することなく常識を突き破るダイナミズムの力強さ、表現意欲の強さに審査員一同、感服する他はなかった。老境に入られてもますます旺盛なチャレンジ精神を発揮される姿勢は、会員諸氏にとってよい刺激になるだろう。ベテラン作家ほど新しい創意工夫の研究に余念がないのは長野県工芸展の美質である。眼前に現れた未知の作家の手になる新鮮な造形が、実は例年とは異なる仕事で審査を受けた重鎮の仕業と判明した時のインパクト。あっと驚く瞬間は今年もあった。そのような体験が毎年待ち受けているのは頼もしい。長野県工芸展は審査員にとって喜びであり、期待であり、楽しみである。
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