令和元年第39回 長野県工芸展

松本市美術館 市民ギャラリーA・B
令和元年9月4日(水)~9月8日(日)
午前9時~午後5時 (最終日は午後4時終了)
主 催/ 長野県工芸会・ SBC信越放送
共 催/ 長野県・ 長野県教育委員会・ 長野県芸術文化協会
後 援/ 松本市・ 松本市教育委員会・ 信濃毎日新聞社 市民タイムス

第39回長野県陶芸展 募集要項

審査 委員

竹 内 順 一 (東京芸術大学名誉教授)

田 中 正 史 (長野県信濃美術館学芸課長)

外 舘 和 子 (多摩美術大学教授)

早 川 研 夫 (長野県工芸会 会長)

(敬称略・順不同)

審 査 講 評

審査委員長 竹内 順一

 今回展で最も印象的であったのは、作者それぞれが作品を完成させるために、真摯に努力している姿が直接に伝わって来たことであった。 工芸をめざす人々にとっては最も大切な姿勢であり、本展の大きな力になっていると思う。本展を見て心動かされる人は多いと考える。
 欲をいえばもっともっと新機軸な作品が生まれても良いのではないか、ということである。もちろん新傾向の題材に挑戦した作品もいくつかあったが、まだまだエネルギーが足りないと思う。従来の殻を破る底力がほしいと思った。その中で、初出品数は12点という。うれしい限りである。
 最後に惜しくも選外になった作者に一言。「作品にする」という意欲が残念ながら伝わってこなかった。「人に見せる」という意識をもっと持っていただきたいと思う。

入賞者

長野県工芸会長賞有線七宝花器「洸」月岡栄子諸工芸
長野県知事賞いのちのね竹内君則陶芸
SBC信越放送賞野 分原山桂子人形
長野県教育委員会賞欅.刳造り箱春原中道木工
信濃毎日新聞社賞型染と絞り染京袋帯「万年青」佐藤亜都子染織
北澤美術館賞花重 松煙染濱青藍(完治)染織
奨励賞Diversity(多様性)斎藤知子陶芸
奨励賞和紙染幾何学文水指吉川孝子陶芸

長野県工芸会長賞

有線七宝花器「洸」 (諸工芸)

月岡栄子 (中野市)

 なにより作品から気品が漂ってくることが一番の魅力である。
頂部の口の充実感は見事であり、これを頂点に下部に向って花文と銀線で表す「雨の情景」が、快い弦楽四重奏を聴くようである。
「洸(ひかり)」と題したこの作品は、日頃の技術研鑽の成果であり、作者のおだやかな自然観が結実した傑作である。

竹内順一


長野県知事賞

いのちのね (陶芸)

竹内君則 (千曲市)

燃え上がる炎のような形態は、動きと変化に富んでいる。
黒々とした土の肌も抑揚に富み、原初的な土のエネルギーを確かに伝えている。この数年、縄文土器が注目を浴びているが、この作品は、いわゆる器のかたちをとらず、いわば縄文の精神性のみを抽出して純粋造形化したようなシンボリックな表現となっている。
作者の内に潜む生きることへの不安や期待、あるいは憧憬を、土の立ち上がりを通して表現した力強い作品である。

外舘和子


SBC信越放送賞

野 分(人形)

原山桂子 (長野市)

 「野分」は、秋の台風の旧い呼び名であり、また秋草の野を吹き分ける風の意味でもある。この作品では、子どもの姿をした風の精のような存在であろうか、両手を広げ、全身で風を受け止めつつ、風の流れに乗っている。
 子どもの髪色、衣装、そして流れる水や風をイメージさせるガラスの台までも、全てをブルー系の色調でまとめ、全体に涼し気である。
 翻る衣装や、めくれ上がる台の形状まで、この作者のファンタジーが徹底されている。

外舘和子


長野県教育委員会賞

欅.刳造り箱(木竹)

春原中道 (東御市)

 通常このような箱は、薄い板材を組み合わせて作る指物技法で作ることが多いが、この作品は、充分な厚みのある木材を刳り抜いて作る、いわゆる「刳物」の技法による。従って、蓋を開けても、角に継ぎ目は見えず、一続きである。作者によれば、樹齢数百年に及ぶ欅の一木から刳り出したという。
 蓋の上面は、なだらかな丸みを帯びて優しげであり、側面は水平方向に、筋状の削りを入れている。欅の大らかな杢目を、箱の形状に沿って活かし、表面は拭き漆で仕上げている。 
 シンプルな形状ながら、見どころが多く、木工芸の魅力を大いに楽しめる作品である。

外舘和子


信濃毎日新聞社賞

型染と絞り染京袋帯「万年青」(染織)

佐藤亜都子 (安曇野市)

 型染の生地と絞り染の生地を表と裏で縫い合わせて、リバーシブルで使えるようにした袋帯の作品。

表と裏で用いられている技法が全く異なり、見る人が受ける印象も大きく違ってくるが、実は、染めの原料としては、両面とも藍が使われており、さまざまな工夫を凝らした、機知にとんだ作品になっている。
 とくに型染では、「万年青」をモティーフに染めの部分と地の部分が、絶妙なバランスで構成されており、ポイントとして置かれた万年青の実の赤い色が効果的に使われている。

田中正史


北澤美術館賞

花重 松煙染(染織)

濱青藍(完治) (松本市)

 着物地の一面に、墨の濃淡で幾種類かの花と葉が染め上げられた作品。
 モティーフとなる、それぞれの花や葉のかたちは、適度に簡略化され、極めて高い密度で描写されており、一見すると、ウィリアム・モリスの壁紙や、アール・ヌーヴォーの図案からの影響を思い起こさせるが、墨染の濃淡と白地の絶妙なバランスを実現した優れた技術と、図案化の基本となる、形態の正確な把握が、この作者ならではの独自性を担保し、個性的な表現となり得ている。

田中正史


奨励賞

Diversity(多様性)(陶芸)

斎藤知子 (長野市)

 革作りの鞄を模した小さな陶器を4個、3個、2個、1個の順番で、前後に並べた作品である。
 鞄のかたちを的確に把握し、その特徴を簡潔に表現するため、適度に抽象化しつつ、小さいながらも、細かい部分にまで気を配った、丁寧でソリッドな造形が、ひとつのオブジェとして成り立たせている。
 鞄の表面には、革の質感を表現するために施された小さなドットによる凹凸も効果的である。

田中正史


奨励賞

和紙染幾何学文水指(陶芸)

吉川孝子 (長野市)

シンプルな使い勝手の良さそうな形の水指である。
格子柄にグラデーションがつけられた幾何学紋様が大変美しい。この効果は和紙染めによるもので、和紙を何層にも重ねて呉須で彩色することで色合いを変え、和紙染特有の美しさを出している。
背景に使われている図柄の絵付けも呉須であるが、色合いを淡くすることと、主になる柄と、従になる柄の形を変えることにより変化に富んだ作品に仕上げている。

早川研夫


入選者一覧

会員…長野県工芸会会員

作品名会員・一般氏 名部門
碧釉香炉会員西村純一陶 芸
青釉線文深鉢会員水野雅史陶 芸
たたき文壺会員宇都宮良幸陶 芸
白壺一般三村貞夫陶 芸
志野組茶碗一般三村貞夫陶 芸
吹墨梅花藻図角皿会員早川研夫陶 芸
花弁文鉢会員早川研夫陶 芸
桃氷裂輪花鉢会員大久保利子陶 芸
飴釉白流椀会員大久保利子陶 芸
焼締花器(寄り会う波)一般松井都矢子陶 芸
盛白華文花器一般松井都矢子陶 芸
和紙染幾何学文水指会員吉川孝子陶 芸
和紙染幾何学文組皿会員吉川孝子陶 芸
象嵌彩小壺会員小林聖生陶 芸
染付捻花文大皿一般仙田貴子陶 芸
白釉線刻文花器一般仙田貴子陶 芸
焼締め香炉一般野沢尚志陶 芸
青釉大壺会員本間友幸陶 芸
令華会員浜 利秋陶 芸
雪形白釉花器初出品西澤颯陶 芸
彩泥鉢初出品西澤颯陶 芸
桑葉天目紋急須一般垣内秋男陶 芸
赤い記憶会員青木一浩陶 芸
幾何彫文アンダープレート初出品斎藤知子陶 芸
Diversity(多様性)初出品斎藤知子陶 芸
トルコブルー茶碗会員原民雄陶 芸
彩磁薔薇蓋物会員篠田弘明陶 芸
「W」会員篠田弘明陶 芸
彩流会員吉田美恵子陶 芸
翠映会員吉田美恵子陶 芸
花器会員谷口節子陶 芸
透かし香炉会員谷口節子陶 芸
練上花紋双鉢会員寺澤里美陶 芸
練上花紋組皿会員寺澤里美陶 芸
螺旋絵花紋象嵌大皿会員松本邦之陶 芸
火襷七点酒器セット会員松本邦之陶 芸
漆黒釉鉢氷裂への誘い会員堀内珠実陶 芸
焼締め角壷初出品竹前朱美陶 芸
藍浮動紋組皿(4点組)会員愛甲宏明陶 芸
限無渦紋壺会員愛甲宏明陶 芸
こだま紋陶筥会員坂口禮子陶 芸
オリエンタルトライバル会員北沢 幸男陶 芸
ドラゴンクロー会員北沢 幸男陶 芸
斑文青白釉鉢会員荒井寿子陶 芸
青白釉壺会員荒井寿子陶 芸
秋のさわ風会員塚田光弘陶 芸
『秋風』水指し一般月岡彰夫陶 芸
『カプリ島の花』抹茶碗一般月岡彰夫陶 芸
炭化窯変壺「刻」一般酒井弘幸陶 芸
ストライプいぶし傘立「樹」一般酒井弘幸陶 芸
焼締花入れ会員野池光昭陶 芸
黒い円会員野池光昭陶 芸
志野水指会員小池智久陶 芸
曜変天目会員丸山正行陶 芸
禾目天目会員丸山正行陶 芸
幻想初出品木口泰広陶 芸
夜空初出品木口泰広陶 芸
紫紅釉面取壺会員土屋 晃陶 芸
練上藍彩文四方花器会員寺島ひとみ陶 芸
交わる形会員中山 康陶 芸
会員大森國子陶 芸
たなびく会員大森國子陶 芸
志野丸花入会員荻原恒夫陶 芸
自然釉急須会員安藤哲夫陶 芸
自然釉急須会員安藤哲夫陶 芸
輪舞曲会員篠田明子陶 芸
自然釉流線文壺会員高地善之陶 芸
焚焼・器会員高地善之陶 芸
夏隣り会員佐藤今朝寿陶 芸
いのちのね会員竹内君則陶 芸
静寂の囁き2019-C会員西澤伊智朗陶 芸
練込綾杉紋様八方組皿会員木内洋介陶 芸
色象嵌ワレモコウ文壷会員小林陶春陶 芸
型染訪問着「蓮池」会員佐藤亜都子染 織
型染と絞り染京袋帯「万年青」会員佐藤亜都子染 織
風炉先屏風「さいはて」一般小山仁郎染 織
訪問着「海鳴」一般小山仁郎染 織
パリの空の下(ろうけつ染め)会員木村不二雄染 織
銀河月唱初出品田口ちはる染 織
花重 松煙染一般濱青藍(完治)染 織
凍雫初出品濱怜史染 織
初夏の森会員木下紀子染 織
回転一般青天目和之木 竹
小鳥一般折井睦人木 竹
千鳥編花籃会員小出文生木 竹
実のり一般徳武悦二木 竹
やったぁー学生堀 瑞希木 竹
竹にとかげ学生堀 瑞希木 竹
欅.刳造り箱一般春原中道木 竹
梻.砂磨盛器一般春原中道木 竹
野分会員原山桂子人 形
眺む一般星野幸恵人 形
夏の日会員湯田明美人 形
春光会員湯田明美人 形
龍渓硯一般初出品泉 石心諸工芸
有線七宝花器「洸」会員月岡栄子諸工芸
泥七宝「森の中へ」会員平林義教諸工芸
天魚初出品田﨑研治諸工芸

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