長野県立美術館 しなのギャラリー
令和5年 8月25日(金)~8月29日(火)
午前9時~午後5時 (最終日は午後3時終了)
主 催/長野県工芸会、SBC信越放送
共 催/ 長野県、長野県教育委員会、長野県芸術文化協会
後 援/ 信濃毎日新聞社
第42回長野県工芸展 募集要項
審査 委員
榎 本 徹 (岐阜県現代陶芸美術館 顧問)
霜 田 英 子 (長野県立美術館学芸課長)
鈴 木 潔 (ヤマザキマザック美術館顧問)
早 川 研 夫 (長野県工芸会 会長) (敬称略・順不同)
審 査 総 評
審査委員長 鈴 木 潔
第42回長野県工芸展は厳正な審査の結果、応募点数90点のすべてが入選となった。 私は過去30余年審査員を務めてきたが、今回のようなケースは記憶にない。場違いな印象を与えるような異質な作品は見られず、応募作品の純度が高まっているのは慶賀に堪えない。
歳月の経過とともに作家の世代交代が進行しているにもかかわらず、緑豊かな環境に育まれた感性が放つ地域の特色が連綿と継承されている点は、長野県の工芸活動の美質といえるだろう。
グローバル化して地域の特性を失いつつある工芸産地も散見される現代において、古き良き時代への郷愁を想起させるような朴訥(ぼくとつ)で生真面目な信州人の気質を反映した穏健な美の世界が温存されていることを喜ばしく思う。
長野県工芸会長賞 | 乾漆盛器「開笑」 | 伴野崇 | 漆 芸 |
長野県知事賞 | 形染着物「ほおずき」 | 佐藤亜都子 | 染 織 |
SBC信越放送賞 | 夏の家族(草木染ろうけつ) | 木村不二雄 | 染 織 |
長野県教育委員会賞 | 市松螺鈿茶器 | 小坂進 | 漆 芸 |
信濃毎日新聞社賞 | ヘキ | 小池智久 | 陶 芸 |
奨励賞 | 栃刳造(アロマディフューザー) | 春原中道 | 木 竹 |
奨励賞 | 組鉢「ありがとう」 | 岸田怜 | 陶 芸 |
長野県工芸会長賞
乾漆盛器「開笑」 漆 芸
伴野 崇 (佐久穂町)
奈良時代の仏像製作で多用された技法である乾漆は、型の周囲に麻布を巻き付けて漆を塗布し、それを何層にも重ねて厚みを出し、最終的に型を抜き取る手法である。
本作は伝統的な技法にのっとりながら、洗練された造形感覚の冴えを感じさせる秀作である。全体のフォルムに安定感があり、端正にして豊かな量感をたたえているが、手に持つと意外に思えるほど軽量化されている。薄く仕上げた口縁の三方に、消え入るように入れられた2本の半円が心地良いアクセントとなっている。
鈴木 潔
長野県知事賞
形染着物「ほおずき」 染 織
佐藤亜都子 (安曇野市)
絹布を用いて長板中形と呼ばれる染色技法で染め上げた作品。枯れたほおずきの外皮が白いレース状の網目で表現されているところなどは、型染めの伝統技法である渋紙を細かく切り抜いた隙間に糊が入って防染されたもの。ほおずきの葉も明暗の対比で表現するなど細部までよく考えられたデザインになっている。全体の構成は波状曲線を繰り返す伝統的な装飾文様である「立涌」(たてわく)を基本にしている。
古くからある歴史的な造形表現を現代風にアレンジした構成の見事さも称賛に値する。
鈴木 潔
SBC信越放送賞
夏の家族(草木染ろうけつ) 染 織
木村不二雄 (須坂市)
夏の思い出を表した作品とのことだが、そのイメージの爆発は多岐にわたり目を見張る。画面右上には古賀春江の水着の女性、その後ろには北斎の波と富士山、サーフィンする雷神や海の生き物たち。画面中央の空飛ぶクジラの上には、国芳の骸骨が夏休み学習長を手に子供に迫り、空には夏の虫たちが舞う。北斎の百物語の皿屋敷、画面中央には青木繁の海の幸を模した人々の行進、お盆のナスの馬に乗る黒田清輝の湖畔の女性、つげ義春のねじ式まで、絹布にろうけつ染の技法で破綻なく描かれた楽しい作品。
青系統の色以外は、桜から取った色を使用した草木染である。
作者は、自然由来の染料を使う信州独自の草木染友禅の継承者の一人。
霜田 英子
長野県教育委員会賞
市松螺鈿茶器 漆 芸
小坂 進 (塩尻市)
螺鈿を市松様に配した茶器で、全面に螺鈿を配さずに、抑えた所が成功している。
榎本 徹
信濃毎日新聞社賞
ヘ キ 陶 芸
小池智久 (長野市)
濃い緑釉(織部釉)が全体にかけられた花器である。大きな木のような外面処理も作品を迫力あるものにしている。
榎本 徹
奨励賞
栃刳造(アロマディフューザー) 木 竹
春原中道 (東御市)
栃の木材から刳り出したアロマ用の香炉、アロマディフューザーである。もったりとした形態、木目を引き立たせる生漆が光沢を与えた、美しい作品となっている。
蓋は三面のなだらかな曲面に削られ、その造形はゆがみなく完成されている。三本の稜線が強調され、形を引き締めるとともに、三面にはそれぞれ一つずつ涙型のアロマ用の穴があけられている。作者によると、アロマを入れる石には、信州らしく、吸水性のある松代の柴石を使用したそうだ。
ベテランの卓越した技術による間違いのない作品である。
霜田 英子
奨励賞
組鉢「ありがとう」 陶 芸
岸田 怜 (長野市)
朝顔のように思いきり、底部をしぼった形が心地よい。
やや青みがかった釉に染付がよくマッチし、バリエーションある紋様がよく生きている。
榎本 徹
入選者一覧
会員…長野県工芸会会員